紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


顔に穴

意識が散逸。いろんなものにわたしが存在している。空気中の水分に顔が反射している。鏡みたい。たくさんの。わたしの。目玉めだま覗き込む目玉。白目の青さ。わたしはここにいないので。ぜんぶ。

ある日、左の頬に小さな穴があいてしまい、気になるのでさわっていたらそれがだんだん膿みはじめぽろぽろと削れて大きな穴になりました。またしばらくして今度は右の頬にも同じことが起き、顔に対称に穴を持つことになった。穴は奥が見えないほど暗くどうも深さがあるようで、しかし離れたある距離から見てみると向こうが見えるという不思議な様子。そしてさらに日々ぽろぽろとその無の存在感を増しているのであった。

薬を塗ってみようにも病巣の実体がないことにははじまらず、なにか詰めようと思ってもその深さは何もかもを吸い込んでしまう。そうした日々大きくなる虚無を隠すため最初はマスクなんぞしていたがそれもそろそろ意味をなさなくなってきており、このまま穴が大きくなり続け、自分はどうなっちまうんだろうという不安もあり、でもこれが他の人にばれて大事になるのであればそれも楽しみとやけっぱちのような気分もある。

おそらく最初は鼻か口、そして目と耳というように、周囲を巻き込み穴は広がり続け、顔中が穴というかもはやそれは無であろうけど、それになってしまったときのことを考える。なにを(どこで)考え、どこで(どのように)喋るのだろうか。

顔の穴の中を雨が通り抜けていき、その雨つぶにはわたしの顔が写っている。見ている。見られている。わたしはここにはいない。

良いと思ったものにはやっぱり素直に賞賛を伝えたい。