紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


傷がある

傷がある。赤いふくらみがある。白い膿がある。薄茶色のしみがある。壁をさかいに外側と内側がある。外側からできる傷がある。内側からやってくる傷がある。たがいに壁を突き抜けようとする。外側のことは外側で、内側のことは内側で。そうできないのが傷である。傷はしるしである。傷を見つけたら癒したいと思うだろう。拡げてやろうと思うものもいるかもしれない。どちらにとっても、傷は目印である。きっかけがないと人は何もはじめられない。傷が貫通すると穴である。すると外とか内とかの別はなくなり、交通が可能である。傷と呼ばれないそこは少し変わった見ための通路となる。通路となれば、傷のことはみな忘れてしまう。傷は現在形であり、穴は過去形である。忘れてしまうこと自体が穴だという人もいるかもしれない。貫通しない傷はいつか癒えて何もなくなるかもしれない。元どおりかは誰もわからない。元の状態を憶えていないように傷の状態を憶えているものもいない。