紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


人魚姫

うまれる前の話を避けている。最近、ていうかずっと、それをなかったことのように生活している。ある日いきなりあらわれてヤアってわけじゃないのに。頑なにその日々のことは語らない。水族館で青い水槽を眺めているように、ぺかぺかと水の反射が顔をなでていって、その向こうで踊っていたみたいなことを、踊っていた側も眺めていた側もなにもいわない。口にしてもなにもならない。かもしれない。でもなにもならないかもわかっていないのだ実際は。恐れているのかもしれない。なにを。水槽があったことをだろうか。われわれが距てられていたこと、べつの空気を吸っていたこと、を忘れるように、近づくことでそれをなかったことにしようとしている? 人は最初から人であったかのごとくぽこと切り出されて生活はゆらゆらと泡の中にあるように浮遊している。