紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


諸行無常とはこのこと

入口前にトラックがつけられていて、ぶかぶかのズボンを穿いた人たちが何人か行ったり来たりしていた。すんません、とか挨拶されても親しみは感じられなかった。階段をあがって部屋に入ろうとしたところで大惨事、運び出されるために横倒しになった家具が玄関を塞いでいる。木くずや埃がところどころに散らばっていてマスクをひきあげる。なんの思い入れもない手によって家がめためたにされる。クローゼットから衣類が消え、棚から本が消えたところでもうわたしの知っている場所ではなかったのだけど、それにトドメだ。いやいやそれよりひどいでしょ。無残無残。なにもかもが部屋を空っぽにするための障害物であり、男たちは主役、ヒーローとなって目的を遂行していた。物が物になるところをみた。正当にあつかわれないそれは死体と化し、わたし達を暗い気持ちにさせた。部屋って物だったのだ。あるじのいないベッドに腰かけながら。

そうして部屋なのか物なのか判別がつかなくなった頃にはもういいような気がして土足で上がってしまう。内部が外部になった? 外側が内側に流れ込んだ? 宇宙だ。隅にゴミ袋をひろげて座っているのもなんだか本当にちっさいなという感じがして。土足のくせにせっせと箒で掃いたり掃除機かけたりするわたし達。なにもなくなった部屋は思ったより広いでしょうといわれたけど、ただ空っぽなだけで、うまくいえないけれど物とか人があることでコスモ的な広がりを持つのでは、というような。気が。