紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


夏休み

夏になった。と毎日思っている。今日から休みをとって、遠く涼しい地方へ行く。とはいえ、大人数でオトナとしてまあまあの規律を守ってだらだらしないといけないので、わたしにとっては労働のようなものである。しかしそんなことを職場の人に言うのは得策ではないので、夏休みありがとうございますオホホホみたいな感じで出かける。
信じられない量の食糧を買い込み、車に乗せて出発。同乗者が眠いと言って、話を尽きさせないように気を遣う。わたしの話はしないでもおしゃべりが好きなようなのでひとまず安心。質問ばかりしてしゃべらせておく。共通の知人の話をして、「好きとかじゃなくてファンなんだ」を何度もきいて、ああ好きなんじゃんって思ったのを言わないでおく。
現地に着いたところでまずひとっ風呂とで公衆浴場へ行く。温泉どころの人たちは何もなくても風呂に行くという風で、脱衣所にはたくさんの地元の老婆がいて、他愛もないことをおしゃべりしていた。風呂はたくさんの女性の裸が見られる。わたしもいずれはこうなるのだなという気持ちが強くして、彼女らの背中を見つめる。この辺りの人たちはカランを使うことをしないで、湯船からお湯をとってタイルの上で広く広く身体を洗っていた。
服を着ようと脱衣所に戻ると、服を着た老婆が「あれあれ」と言いながらごそごそしている。忘れ物が見つからないようで、しかし「あっ」と小さく叫んでわたしと目が合うと、着物の前をめくって見せた。「これを」と言ってつるんとした下着をつまんで見せ、「忘れたと思っていたら着ていたわ」と教えてくれて、わたしはといえば、よかったですねとしか言えずもごもごして、かまわず老婆は引き戸を開けて、「おやすみなさい」と挨拶した。