紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


シェフ - あと一年とちょっと

   

 

シェフは結婚願望が強くて、わたしはそれほどでもなかったというのは前も書いたけど。

 

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photo by CHAIN12

 

シェフは家庭環境が複雑だったから、自分は理想とする家庭を、愛情のあふれる家庭を持ちたいと言っていた。わたしはといえば、家庭環境において恵まれていないとは思わないけど、家族同士が愛情を交換するというのが、今一つわからなかった。育った環境がそうじゃなかったという話だけど。でもそこで、情愛に満ちた理想の家庭を目指したいとは思わなかった。むしろ、結婚も愛情も忌避したいと思う。思った。思っている。関連はこのへんの話。

似たような経験から全然方向の違う結論になってしまったけど。ともかく、そこは決定的な違いだった。将来的にはわたしが折れるんだろうなと思っていたけど、それもやっぱり現実感はなかった。

意見の相違は明白で、相手の希望に十全に応えられないのであれば、関係をやめにするのが正しいのだと思うことが何度となくあった。この論理は一方的で、歩み寄る姿勢が足りなくて瑕疵がありまくりなのだけど、すごく落ち込んでいるときに至る思考だったから、あまり気にすべきではないのかもしれない。破滅願望のようなもので。

でも、そのことを考えて、悲しい気持ちになって、これをシェフに言ったら悲しむかしら、怒ってくれるかしらと思うのが、実は好きだった。熱血漢で正義感のあなた!

甘酸っぱい悲しみのシロップを少しずつ味わうという悪癖。友人に話したら悪趣味だねと笑われた。ふたりのことなのに、ひとりで楽しめるレジャーだった。一人でとはいえ、「別れ」のことをたくさん考えて、ちょっとずつ自分(たち)に呪いをかけていたようにも思う。言霊というか。毒に耐性がつくように、慣れていって、でもある日に致死量を超えちゃってどーん!!

この癖はまだあって、眠れない夜などに絶望的な気持ちになることがある。甘酸っぱさの予感がするのだけど、手前でやめて、それ以上は考えないようにしている。

 

いったら感情をあまり表に出さず起伏が少ないわたしと、思ってることを何でも口にしてしまうシェフは対照的で。でも悪い感じではなく。好きだ嫌いだ楽しい面白い悲しい怒っているエトセトラエトセトラ。興味深かったし、そんな人と一緒にいることで、わたしも楽しい面白いの多い人間に近づいた。

すごく笑わせてもらったり、サプライズでプレゼントをもらって喜んだり、悲しいといって泣いてみたり、どんなことがあっても、シェフはわたしを受け止めてくれた。受け止めてくれると思えた。これはわたしにとってものすごく画期的なことで、安心して笑うことができたし、ふざけることができた。こんな風に人とつきあうことができる、してもいいんだと思えるのは素晴らしいことだったのだ。

愛情表現の言葉はたくさん言われた。そんなことは家族では、ほとんどなかったから感動的だった。逆に、言ってくれと言われることも多かったけど。そんで、わたしはあんまり言わなかったのだけど

シェフはわたしに感情をくれて、人間にしてくれた、恩人のような人でもあったのだ(まあね、まあね。今思えば、ただ重いのが好きな人だったんだろうけど)