紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


シェフ - あと一か月

   

 

終わりのはじまり。わたしたちの恋愛はぼんやりと死につつあったのではないかと。今では思うけど。それとは別に。メルクマールのような。もの。

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photo by OneEighteen

 

何の気なしにシェフの携帯をみた。そんなつまらないことなんだけど。

そこには、別の女性と、楽しくやりとりをするシェフがいた。よくある話だ。

彼がメールを打つのが面倒なときとかに、口頭で確認しながら、わたしがメールをつくることがあった。だから、わたしが携帯をさわるのは日常だったし、まさかそんな迂闊な連絡の跡を残しているとは思わなかったし。ていうか、他の女と会ってるのかよ!

急に心臓が早くなった。シェフに不審がられないようにしないといけない。真顔。送信メール・受信メール・着信履歴みたよ。真顔。みた。真っ黒とは言わないけど、心情的には真っ黒だ。真顔。

わたしも名前だけはきいたことがある人だった。仕事先で一緒になる人。前、引き抜きたいって言ってた人だ。こないだ、友人に紹介しようかな~とか言っていて、ふーんってきいてた人だった。紹介しようが本意だったのか、魅力的と感じていることの裏返しなのかなんなのか。まあなんでもいいけど。 

連絡を密にとりはじめたのは、それより一か月くらい前かな。メールは毎日してたけど、相手ともメールをしていた。時には、同じ写真と同じ文言を送っていることもあった。まあまだ女友達といえるレベルといえばそうだったのだけど。そんなことは考えられなくて、浮気だ浮気だで頭がいっぱいになった。

わたしが旅行であけている間に、ふたりで会ったらしかった。メール。メールの内容。おぼえてる。「とっても素敵な出会いでした」って。何を言ってるんだろう。気持ち悪いな。ものすごく陶酔した内容に、気持ち悪さをおぼえた。二十代をいくらも過ぎた男性が書く文章なんだろうか。その頃のわたしがあまり見なくなった彼の姿。わたしが嫌いだった芝居がかった調子がそのやりとりには溢れていた。それもシェフの一部なんだろうとは思うけど。

ここから、シェフの携帯電話を見ることがやめられなくなった。前述したとおり、携帯にふれるのはそんなに不自然なことではなかったけど、いざチャンスとなるとやっぱり少ない。眠ってるときとか、お風呂に入ってるときとかに、さっと中をみる。そんなの見たって幸せになれるわけないのにね。わたしは自分の不幸に指をつっこんで確認するだけの人間になった。

 

どれだけ親しい人でも、親しければ親しいだけ、プレイベートは尊重しないといけないと思っている。ぐずぐずのなあなあになっちゃうのが一番だめだ。それは親しさと依存を混同している。ふたりの足元が溶け合ってはいけない。連理の枝ぐらいならいいのにと思う。

まあでも、すごいありふれた結論で教訓だ。「恋人の携帯は見てはいけない」。