紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


(酵)母を育てる

まず、お湯を沸かす。不織布(?)のテトラを沈めて色のついた飲み物をつくる。

 

音が、きこえる、気がする。ピーシーのシーピーユーよりもっと些細でささやかな。あわ、が、水をかき分けて上がってくる。はじけた。または空気。隣室の咳払いの声とは明らかに峻別される。ちいさな、ぷつ、と、しゅわ、と、じくっ、が。

 

そう、酵母の話をしましょう。菌です。どこにでもいる菌だけど、それを育てていい感じにします。パンをふくらませるイーストが有名です。こちらはスーパーで売っています。イーストも酵母なんだけど、パンを焼くときにはイースト対酵母という二大巨頭みたいにあつかわれます。同じジャンルにいるのにあたかも敵対しているかのようにみえる。イーストは簡便、強力、大量生産、というイメージがあり(あくまでもわたしのイメージですが)、対する酵母には時間がかかる、手間がかかる、愛情深さ、みたいなイメージがある。最後のなんだよという気がしなくもないですが、精神論です。イーストが工場製品なら酵母はこだわりの一品、というような雑なよくある対立を想像する。そういう理解をしていた。ちなみに酵母も売ってるやつは売っている。イーストの隣に並んでいる。

でもなんか今回はりんごがひとつ余っていたのでつい出来心から自家製酵母をつくってみることにした。りんごについていた菌を育てるということだ。で、詳細は省くが完成し、手元にはふたつの容器がある。ひとつは液体(液種)、もうひとつは液種を小麦と混ぜてつくるゲル? ゾル? うーん、ギリシャヨーグルト的な粘性のある状態の元種で、今や液種には糖分を、元種には液種と小麦粉を継いでいけばとりあえず "酵母がいる" 状態は維持される感じになっているのだった。とはいえ、気温も下がってきたし、なにやらアルコール的な匂いがしているので(腐ってはいないので一応菌はいると判断している)、元気とはいえず、正直少し持て余している。

なかば事務的に液種に砂糖を入れて振ってまぜる。炭酸みたいなしゅわしゅわが瓶底から噴き出る。ウー、生きてる! 机の上に置いて眺めていると、活発な泡は束の間で、あとは水の表面と瓶の接するぐるりに微細な気泡がならんでいる。時おり中央にこぽと穴があく、すぐとじる。水面がかすかに動いているような気がして息をつめる。反射した光がふるえているように見える。わたしの鼓動。凝っとしていると音がきこえる、気がする。ささやいている。ささやいている?