紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


HANNNINN

颱風の風が強く吹くたびに小さくうめいて丸まって猫みたいだった。なにか飛んでこないかぎり窓は割れないと言われて、そのうちに寝た。ごみ出しに少し出ただけで葉っぱとか枝とかが廊下や階段に散らばっていて荒くれものが通り過ぎたのがわかった。いつも通りのような日常をなぞろうとして、道路わきの樹が倒れていたりして、確かにあれはあったのだと気づく。誰かが片づけるまでそのままなのだった。

倒れた草の匂いと地面が削れて土の匂いがしていた。そこの畑の野菜たちはどうにか無事で少し乾いて整列していた。乱雑な歩道の上にふと緑が見えて、若い青さのカマキリだった。路上の葉に擬態していたのかもしれないけれど、ただ道路にいただけだった。少し見ていると、首をひねり、昆虫にそう感じるのは奇妙かもしれないが、若い動きだった。汚れのない緑と脱ぎたての肌と油の行きわたった関節という感じがした。新品のカマキリだった。もっと見ていたかったが進行方向に自転車に乗った少年がいて、ハンドルがまっすぐのマウンテンバイク型の自転車だったが、丸い眼鏡をかけていて幼い顔立ちだった、虫になんて興味なさそうだった。わたしが何かを見ていたことには気づいていただろう。頼むから轢かないでくれと思いながらすれ違い、振り返ると同じくらいにギュッと土で汚れたタイヤが止まる音がして、少年が道にかがんでいた。あ、虫採り系男子、が手を伸ばすと緑がつーと動いたのがかろうじて見え、でも巨人には勝てなくて次みたときには少年がカマキリを自転車のどこかにしまって走り去るところだった。ハンドルの間に入れるところってありますか? 一分かそこらのことに、あ、誘拐と思いながら吹いているのは秋の風だった。