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紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


ファンズボン

Fから連絡があったのは、とまで書いてどきりとする。このブログに登場するFF氏のことだけれど、これはべつのFの話だ。Fとは結局はフのことで、しかしハ行のほかの文字(ハヒヘホ)とはくっきりと違って浮き立って見える。これが音のもつ力なのかもしれない。 先日外国人に、キーボードでの"ヴ"の出し方を教えたのを思い出す。uでなくてvって、 英語話者の方がぴんときそうなものなのに、"うに濁点をつける方法"を探していて、日本にいすぎると日本人になりすぎてしまうみたいだ。さてFのことだけど、写実主義をとって、このままFという表記で話を続ける。

その日は友人からの誘いがちょうどキャンセルされた日で、ベランダの掃除をして床の埃をとったところだった。ベランダは先日のプランター片づけのときに鉢底から溢れた砂で乾いた茶色のざらざらが枯山水をえがいており、それを見た同居人が「泥棒が入った!」とにやにやしながら教えてきたほどだ。兵どもが夢の後、さらさらと掃いて水をまいたら大概が流れていった。それで、同居人の帰りが遅い日だったから、何時までに帰って夕食の支度をすればいいと計算して、行くと返事をした。

最寄りの駅に何時と打ち合わせて、それまで本屋に寄る。そこは絵本とか童話とかがおいてある店で、年末まで売り場が拡大されていた。壁には絵本作家の作品が展示されていて、まず絵が飛び込んでくる。 近くにあった一冊をぺらりとめくるとそれはそれは不条理な世界。絵本って、小説とはまったくちがった物語のなりたちをしていると思っていて、現実原則が通用せず、さらに奇妙なところで終わってしまったりする。余白が大きすぎるのだ。これが成り立っている不思議。上手な詩にも似て、説明はいらないのだった。

 

アブアアとアブブブ

アブアアとアブブブ

 

 

外に出て上を見ると、空は青く、その奥にも青があるような深さのある色をしていて、小さな雲は遠くに順番に並んでいた。シュルレアリスム的な空だった。雲の高さと気温湿度の関係を思い出して、なるほどとか思いながら行く。

 

改札を出て、あたりを見回していると半ズボンの男に声をかけられる。これがF。周囲の人たちはみんな長袖や長ズボンや長いコートをまとっている中で、足を半分以上露出している。これがF。「正装ですから」と言われ、そういえばそうだったと思う。しかし寒そうだ。時間までコーヒーでも飲もうといって、店に入る。シックでジャズの流れるような濃い茶色の店内で、出されたコーヒーのカップは嫌味なくらいに小さい。

「自慢みたいなものですが」と言って見せられた雑誌には、Fの名前が小さく載っており、かいた絵を賞に出したんですと言われた。書きかけの絵も続いて出てきて、ああだこうだという話をする。技巧的に考えられた作品よりも、勢いのあるものの方が心にせまってくると思った。好みの話でしかないけれど。そして、わたしは技巧的なものの方が好きだと思っていたので、目の前にある勢いと広がりのある絵の方が好ましく思えるのが不思議だった。

先ほど見た絵本の絵と、詩の余白と、いつも見るブログの言葉なんかを比較して考えて少しすっきりとした。説明的で装飾過多な文章が多くて、詩を、よみたいと思った。Fの絵も、そのうち引き算になるんじゃない? とか予言めいたことを真面目な顔で言っていたが、その最中に毛の生えた太ももが視界に入ってきて、とんでもない気持ちになった。良い雰囲気の喫茶店で詩とか絵、表現について、生足をおおかた露出した相手と真面目にしゃべっている! そんなことがあっていいんだろうか。笑い出す気持ちだ。

 

温まったといって(やはり寒かったのだ)、目的地に向かう。そこはライブハウスで、Fは昔に世話になったといっていた。音楽もやる人なのだ。それで、なじみの場所のはずなのに、なぜか緊張しているFの緩衝材となるべく呼ばれたのがわたし、ということだった。なにかの記念で入場料はフリーになっていて、とくに知らないバンドのライブを眺める。ライブがはじまる前にはきちんとDJが音楽を流していて、ビートに酔う。DJも個性がある、というのは別の話ではあるが、とにかくそのDJはけっこう好きだった。知った曲をききながら、カラオケとインストゥルメンタルは思想として違うもの、というようなことを考えた。

ライブがはじまったが、何を言っているかわからないバンドが、やたらとダイブを繰り返し、ダイブを持ち上げに行きたい人、頭をがんがんにふる客などが久しぶりに見られてとても満足した。人が絶叫しているのって笑ってしまう。

 

それっぽい写真、それっぽい写真とつぶやきながら、写真を撮った。わたしが撮りたいのは空気で雰囲気だったからピンボケがありがたかった。ライブハウスの照明となげやりなカメラは相性がいいぞとか思いながら、ファインダーものぞかないでシャッターを切る。そんな写真をPCで確認しながら、昔に知人が「写真を撮る人は、①写真好きと②カメラ好きと③人好きのみっついるのよ」と言われたのをなんとなく思い出した。

 

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