紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


空に満ちてよ

団地の中を歩いていく。角の道を渡ってそのまま公園に入る。こちら側はふとった木が並んでいて暗い。立派な葉は冬も落ちないままだ。草のあまり生えない乾いた地面にときどき固いものをものを踏む。木の実だろうか。暗がりを明るい方へ突っ切ると、芝生に出る。日光が射し、広がる地面と空が視界に入ってくる。右手では少年たちがユニフォームをつけて野球の練習をしている。奥の方では高校生の部活が脚上げをしているらしいのが小さく見える。公園内の舗道は自転車や歩く人がいて、向こうの遊具の方まで親と子たち。たくさんの黒い丸の頭。カラフルなのはそれぞれの衣服。芝生にも親子がいて、散歩中の飼い主と犬が何組もいる。ほどよくかたまって話中。そして空だ。頭を背中の方にかしげて視界を空でいっぱいになる。黒い木々が縁取りをする。薄い雲が切れ切れながらも全体に広がり、控えめな空の色を隙間から見せた。駅の近くにあるタワーマンションがなんとか頭をのぞかせていた。午前中に来ると老人たちが凧をあげている、はたまたエアプレーンの達人がするどく飛ばした飛行機がゆっくりと旋回しながら降りてくるところが見られる。

こんなにも空を意識する場所はめずらしく、上ばかり見ているとあっという間に芝生を横切り終えてしまう。公園の反対側には管理の施設があり、その隣にはまあまあ立派な公衆便所がある。この間はとても自然に男性側に入ってしまったので気をつけなければいけない。

帰りにもう一度その公園を横切るころには太陽は見えなくなっていて、かすかに残された光もみるみると姿を消すところだった。先よりは濃くなった空の色も、雲があることでその深い青色をより発揮していた。夜でも空の色は青い。青すぎる。ひと組の子どもとおとなが右手と左手をつないで歩いていった。かれらの間には無限があった。広い芝生には電灯がなく、目を凝らすと誰かがいるのが見えて、そういうのはだいたい犬とその飼い主だった。リードに光る細工をしているものもある。近くの学校の吹奏楽の練習がきこえてきて、よくきくクラシックのさわりが何曲も続いた。ひとりでイントロクイズをする。わからなかったらクイズ自体がなかったような顔をする。土地は真っ暗になってしまったが、空は明るく、星がひとつ、ふたつと見えはじめていた。少年の、「おかあさんと、手をつないで、帰るの」という声が。した。