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紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


ピザを喰う

 

少し遠出をして映画を観る。いつもだったら古びた定食屋に行くのだけど、そこは腰のまがった老婆が三人かいて、わたし達は彼女らのことを魔女と呼んでいた。魔女たちは姉妹だろうか、パートも混ざっているのだろうかと想像をかきたてる。くるくるとよく働く女たちなのだった。

だけど今日はピザを食べることにした。理由はない。けど。映画の中でもピザを食べてデートする場面があったから丁度良い感じだった。ピザ屋は混んでいて、入口の紙に名前と電話番号を書かされた。近くの雑貨屋を見てまわっていると電話が鳴って、席があきましたとのことだった。並んで待たせるより、電話をかける方が手間がかかりそうなものだけれど、とにかくその店は待ち時間を客の自由にさせて呼び出すというやり方をとっていた。

三十分は待ったろうか、われわれの空腹は限界を超えていた。これ以上腹は減るのかというラインを何度も越えて、ジャングルの奥深くまで迷い込んでいた。もちろん地図はない。食べるつもりなのがピザという事実が食欲に拍車をかけていた。それをどうにか呼び戻し、水を飲み、注文をする。

ヒナ氏はふくよかな人を連想させるような名前のピザを頼んだ。わたしは迷ったあげくに、ルッコラのたくさん乗ったピザにすることにした。メニューの写真ではそれだけが緑色だった。

やってきた、その、ふくよかなピザは、よく見るとポテトフライが生地の上にぶちまけられていて、しかもドイツ語のケチャップを「お好みで」と渡されるいう大胆ななりをしており、サラミだらけの顔で、「オイラってばどうだい?」とニヤニヤしているようだった。対するルッコラ山はあの特徴的な緑のギザギザの葉っぱがこれまたはみ出すように乗っかっていて、緑の隙間からのぞく生ハムが恥ずかしげでおしゃれだった。

食事にとりかかったわれわれは、ぎざぎざのついた金属の丸い器具でピザを切り分けた。力を入れて、生地を何度もこすった。ポテトもルッコラもそれを上手に邪魔してきた。ピザを口にするまでにまだ困難があるとは。おののく。

やっと切り分けたピザを一口食べて、わたし達はまた旅立った。焼かれた小麦が律儀に空腹を埋めていく。いくきれか食べると、お腹はかなりふくれた。しかしピザの荒野は果てなく広く、食べても食べても終わらなかった。自棄にまたピザを分け、口の中につっこんでいく。美味いのだがやはり空腹が最高の調味料。分け入っても分け入ってもピザ。早くも諦められたわたしのルッコラ山がヒナ氏にまわされポテトフライの後を追いかけた。荒れた心をピザが包み、そのピザを喰らうわたし達の心、の入れ子が延々と続き、びろうどのピザにもしかたのないことしかなかったら。わたし達はどういたしましょう。

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(夕食もあんまり食べられなかった)