ネアカになりたい
寝る準備をして布団にくるまったあとに、同居人が突然「ネアカになりたい」と言い出して、「これはことだ」と思った。今までそんなこと言ったことないでしょ。労働のち深夜に帰宅なんてしたからアタマが蝕まれてしまったのだ。
それで、根っからのネクラのわたしは、このまれな人がネアカになってしまっては大変だという思いから、ひきとめることにした。まずはネクラの良いところをたくさんあげる作戦。
一番に、わたしはネアカな人が苦手で、そのことはかれも知っているだろうと言った。すると、「そこなんだよ、ネクラはネアカを嫌ってネクラとばかりつるむけど、ネアカはそんなことに拘泥しないで分け隔てなく接するから友だちがたくさんできるんだよ」と言われ、そんなきいたようなことを言われても困るワと思ったけれど、ともかく、友人の数(しかも可能性の数!)が多ければいいなんて浅はかだといったが、これもきいたようなことにちがいなかった。
その理論でいったら、ネアカにとってこの世の全員が友人になる可能性を秘めているけど、代わりに狭量なネクラたちからは距離をおかれる可能性があるぞ。好きの矢印が集まるのは断然ネクラだ(それでも、愛されるよりも愛したいマ・ジ・で!! みたいなものなのか)。
なんといったってネクラは深い。深くて暗い。だいたいネアカは文学作品を著さないですよとの断言に、本当にそれはそうと納得され、そこからはどの文学者とお酒を飲みたいか(飲みたくないか)という話題になった。(そこではネクラ達はネアカだけでなく、仲間のネクラですらもなんだかんだ理由をつけて距離をとりたいのだということがわかった。最悪だ。)結論としては川端康成がバランスがよさそうだということになり、わたしは互いのネクラぶりを確認したし、ミッションを完遂したことに満足していた。しめしめ。
最後に「谷崎(潤一郎)は? 」ときいて、「やばいやばい」と言いながら寝た。
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