紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


少年は夢の中

蛍光ペンのインクが渇いていく、じりじりと。忘れるのはしんどいなと思う。憶えているのもたいへんだ。でも楽しかった。さっきまであったことが跡形もなく蒸発するみたいになくなってしまう。頭の中から。とてもとても楽しい会話をしたはずなのに、もう忘れてしまった。わたしとあなたはなにについて笑っていたんだろう。不思議だ。

その場が盛り上がればいいですか? つって。つって、お気に入りの曲だけ入っているプレイリストを再生する。好きな曲しかかからなかった。当たり前なんだけど驚いてしまう。なんの曲をいれたかもう憶えていないのに、はじまったとたんに、あ、好きな曲だ! って気づく。完全なる一人遊び。の完成。

帰り際にかかった曲は、そのときのことが思い出されてたいへんな気持ちになった。甘やかで苦しくて最低だった。でもそれは気持ちの中では最上に分類されるような気がした。あれはとても愚かだったが、滅多に味わえない貴重なものだったと思える。それに比べたら今は本当にぬるま湯だ。現在の感情の波なんてかわいいものではないか。養殖の囲いの中をまあまあ悠々と泳いでいる。庇護の檻の中に入るのはとても大変だったのに。記憶、忘却、その機構。しかしそれすらも渇いていこうとしている。