紙とくまの生活。
忘れるために書く日記。


恋とはどんなものかしら

マスクをして、めがねをかける。縁が格好いいかたちのやつ。週末に買ったコートは今年の流行だというちょっと長めの。濃い青は遠い海みたいな色だ。合わせやすいのは白かベージュなんだけど、羽織ってみたら絶望的に似合わなかったし、この青にひと目惚れな感じ。肩がゆるくて裾は無責任に落ちていて投げやりだ。

ギークみたいですね」といったら店員さんは笑ってたけど、ちゃんときこえてたんだろうか。ギークにはリュックだ。寒くてニットをかぶるか迷ったけど、そうしたら記号が重なりすぎて、雑誌のキーワードが歩いてるみたいになったのでやめた。

ファッションが足し算だけになってしまうのはスマートでない気がする。かといって何を引くのかは決心がつかない。

会社の人と少しだけお酒をのんで、今後の話をした。来年度からの新しい計画に来てほしいといわれたのは予想どおりだった。手ごたえのないわたしを前に状況説明をして自分の希望を伝えて、なんだか愛の告白をされてるみたいだった。

なかば予想していたとはいえ、誘われたのは少し驚いた。わたしはその人が苦手で、その人もわたしのことを煙たがっていると思っていたから。こんなことばっかり書いてるから、お前は嫌いな人ばかりじゃないかと思われそうだけど、それはまあ当たっていて、たいていの人のことをちょっとずつ苦手だ。そこに、ちょっと好きが混ざったり混ざらなかったりする。

その人の無神経なところが嫌だなと思っていて、わたしのことを嫌いだから無神経なことするのかなと思っていたのだけど、それは性格ゆえで、むしろその無神経な部分をフォローしてほしいとかなんとかそんな感じだった。短所を認識したうえで、その短所が他人を刺激するということは考えていないみたいだった。鈍感だなと思ったけど、そういう短所なんであって、それは構造的な問題のような気がした。

愛だの恋だのでなく、あの雰囲気を味わえるのはラッキーだった。うまれてはじめて告白されるのがこれでなくてよかった。告白の空気がとろける前の緊張と期待のないまぜの上澄み。さらにその上から眺めているみたいだった。わたしは当事者ではなく、心はよそにあった。かわいい女の子が恋人のことを教えてくれたのを思い出した。全然。そんなことばかり考えていた。